円形脱毛症は、毛を作る装置である毛包を間違って自分の免疫が破壊してしまう、自己免疫疾患です。免疫に関係する遺伝子のタイプによって円形脱毛症が起こりやすい体質の方が、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症の後や疲労、精神的なストレスが引き金になっておこるとされています(ただし、明らかな誘因がないこともあります)。円形脱毛症の病気のパターンと抑うつ状態には関連性はないのですが、円形脱毛症の74%の患者が一生の中で一度以上は何らかの精神疾患の診断を受けていることが報告されています。実際に診察をしておりますと、昇進・栄転などでとても強い精神的ストレスを受けた後に脱毛症状になった患者さんから相談されることも多いのですが、特にストレスの関与がなさそうな患者さんもいます。すべてストレスが原因というわけでもなく、円形脱毛症の誘因は様々で、遺伝的要因(家族内発症が多い)やアトピー性皮膚炎といった免疫が関係する病気の関与も報告されています。
 新型コロナウイルスやインフルエンザに感染した後に円形脱毛症が発症するという報告があることからも、免疫がストレスを受けることで、免疫系がウイルスと間違って自分の毛を攻撃してしまうという異常事態になったのが円形脱毛症と言えるでしょう。当院ではステロイド、抗ヒスタミン薬、セファランチン、グリチロン、カルプロニウム塩化物の外用療法、紫外線療法(光線療法)などのクリックで可能な「保険適用のある治療」かつ「副作用の少ないもの(痛みがゼロの治療)」だけを行っています。円形脱毛症の特徴として、毛が抜ける以外の悪いこと(内臓が壊れるなど)が起こらないということがあるので、治療は決して無理をしないのを原則にしています。
なお、2022年から日本でも開始となった治療であるオルミエント(JAK阻害剤内服療法)は脱毛部位が50%以上を占める重症例で、15歳以上で半年以上も慢性に脱毛が続いている患者さんが対象となりますが、こちらは副作用がある治療であるため基幹病院に紹介させていただいております。ステロイドの点滴も同様に副作用がある治療法であるため当院では行っておりません。
 
 当院は、とても多数の円形脱毛症の患者さんが受診されております。自己免疫疾患ですから、膠原病と同様に難治な疾患です。特に治療開始3ヶ月くらいは、悪い切れやすい毛が新しく生えてきた毛に押し出されることで、かえって脱毛が増えるように思えることもあります。重症の円形脱毛症は、半年くらいの間隔で良くなったり悪くなったりを繰り返し、長引くことも多いです。したがって、悪化した方も諦めることなく治療を継続していただき、上手に付き合っていくことも必要ですし、一方、いったん改善した方も、ある程度は治療を続けることが望ましいと思います。
 
 
病態の解説「円形脱毛症」:ばい菌やウイルスと間違ってリンパ球が自分の毛を攻撃してしまい、毛が抜けます。でもこのリンパ球は内蔵は攻撃してこないので、そこは安心してください。
 
参考文献:
1) Betz RC et al: Genome-wide metaanalysis in alopecia areata resolves HLA associations and
reveals two new susceptibility loci, Nat Commun 6: 5966, 2015.
2) Petukhova L et al: Genome-wide association study in alopecia areata implicates both
innate and adaptive immunity, Nature 466:113-117, 2010.
3) Colon EA et al: Lifetime prevalence of psychiatric disorders in patients with alopecia areata, Compr Psychiatry, 32: 245-251,1991.