20〜40歳くらいの方で、ずっと、顔の全体的なかゆみ・アトピーや乾癬ではない・スキンケアは頑張っているはずで、いろいろサプリメントも飲んでいるのに、何軒も回っているのに、どこの皮膚科でも治らない・・・という患者さんが当院に病院を変えてみても、すみませんが、多分、治りませんので、当院を受診するのではなく、現在通院中のクリニックの先生から言われた療養指導の内容を、もう一度復習してみましょう。このコラムは、そういう話です。
まずは簡単に治る顔の湿疹の話からです。眼の周りだけ痒い・腫れる場合は、治療は容易なことが多いです。両方の頬が全体的に痒くなる場合、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎に多く、こちらも標準的な治療で改善が期待できます。中年以降から高齢者にかけては脂漏性皮膚炎の割合が多くなり、カサカサして赤いのが特徴となります。カサカサするのは炎症のせいであって、乾燥のせいではありませんが、患者さんは誤解して、過剰なオイル系の保湿をしていることが多いです(ただし脂漏性皮膚炎イコール脂性肌ではなく、むしろ炎症によってバリア機能は低下しているので保湿が不要というわけではありません)。このように病名によっては、生活習慣の改善などは不要で、適切な塗り薬だけで速やかに消える皮膚炎もあります。
さて、今回のコラムのテーマである、アトピー性皮膚炎ではない場合で、特に20〜40歳くらいの方の場合、顔が痒い要因は、とても様々であり、ただ薬をもらっただけでは、難治なことがあります。具体的には、長年使い続けている化粧品の悪影響、化粧水・乳液・保湿剤による過剰な保湿によって顔のブツブツや赤み、痒みを生じていることが多いです。病名としては接触皮膚炎、酒さ(酒さ様皮膚炎)などがあります。要するに、スキンケアのやり過ぎで赤みやブツブツが、生じます。ステロイドまたは保湿剤を使って良くなった気がするのは一時的で、実際には悪化要因のことが多いです。当院では、顔を洗いすぎないことを重視し、過剰なスキンケアは、すべて中止する指導を行っておりますが、いずれにせよ、現状のスキンケアを見直す必要があります。
(特に、酒さについて)
酒さの治療薬は、皮膚が落ち着いていない時期に塗ると、逆に悪化することがほとんどです。スキンケアのシンプル化(肌断食)が完了し、接触皮膚炎(美容液等)または悪化因子が除かれ、脂肌が乾燥肌に変わってきた後で、やっと、ロゼックスゲル(メトロニダゾール)やイベルメクチンクリームの出番となります。つまり、何度か再診していただき、状況が整うまで外用薬は処方されないことがあります。外用薬が安全に使える肌になるのに数週間かかることがありますが、その間は、耐えるしかないです。なお、酒さだけでなく、脂漏性皮膚炎でも、生活習慣の改善が必要です。
しかし残念ながら、今まで診察した医師が悪い、治療法が悪い、薬は塗る時間はない、自分は何も悪くないはず、現在の(過剰に保湿する)スキンケアは変えたくない、というタイプの患者さんは、自分の行動改善はできていないわけですから、処方箋をもらっただけでは、なかなか改善してきません。もちろん、当院に病院を変更しても改善することはありません。
一部の患者様には、標準外の治療をご希望される方もおられます。医療機関はある意味サービス業の側面もありますので、医学的な整合性が取れずとも、ある程度ご希望される治療に合わせるクリニックもあろうかと思います。当院は、ご希望される薬だけ出して終わりという(よくある)皮膚科ではなく、エビデンス(効果が統計学的に認められる)がある治療のみを実施する方針です。いきなり特定の外用剤を処方してほしいとご指定で受診されましても、結局、その外用薬で逆に悪化したりするかもしれません。
現在、ほとんどの皮膚科疾患で療養指導はすでに標準化されております。安易に皮膚科を当院に変更するのではなく、今一度、現在通院中のクリニックの先生から言われた指導内容を自分は守れているのかどうか、もう一度復習してみましょう。
※参考文献
今井康友,フケ(頭皮鱗屑), 今日の臨床サポート, エルゼビア,2019-2022
今日の臨床サポートは、ほとんどの臨床研修病院(大学病院等)で採用されている、主に電子カルテから閲覧できる書籍(医師向けのエビデンス・データベース)のサービスです。国内の各分野を代表する1,400人の医師による実践的な臨床の指南書となっており、国際的に権威のある出版社であるエルゼビア社が発行しています。院長は、この皮膚科分野の一部を執筆させていただいております。